余裕がないからこそ考えるべき?経営に効く理念と戦略のつくり方
2026.09 09
  • Writing

    Takumi Kobayashi

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    Bizcre編集部

余裕がないからこそ考えるべき?経営に効く理念と戦略のつくり方

経営者にとって、立ち返るべき理念や目標に辿り着くための経営戦略は、経営活動の指針となる大切なものです。しかし、その重要性を理解しているものの、目の前の業務に追われ、つい後回しになってしまう経営者の方も多いのではないでしょうか。経営支援の第一線で経営者と向き合ってきたビズクリサポーター・森田祐司さんは、「業績を安定的に伸ばし、組織を持続的に成長させている会社には、明確な経営理念と戦略がある」と話します。 今回は森田さんに、理念や経営戦略の必要性から、実際にそれらを形にして運用するまでのステップ、支援者との関わり方まで、実践的なお話をお聞きしました。
余裕がないからこそ考えるべき?経営に効く理念と戦略のつくり方
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森田 祐司

森田 祐司 もりたゆうじ

株式会社キャリアリーダーシップラボ 中小企業診断士
メーカーでの上場準備実務、経営コンサルティング会社を経て、NTTグループにて約15年間、グループ企業向けの人材・組織開発に従事。現在は独立し、キャリア開発・人材開発・組織開発の3つの領域を連動させた支援を行っている。

なぜ理念や経営戦略が必要なのか?

まずは理念や経営戦略とはどういったものなのでしょうか。

理念と経営戦略は似たようなシーンで使われることがありますが、それぞれの性質は異なります。「不易流行」という言葉で説明すると、理念は「不易」の部分、つまり社会に対する存在意義や自分たちが大切にしたい思想など、時代や事業が変わっても普遍的なものです。一方で経営戦略は「流行」、つまり、外部環境の変化に合わせて柔軟に変えていくべきものです。
一般的には、理念の方が抽象度が高く、経営戦略の方が具体的です。というのも、理念が具体的すぎると、「これしかできない」と近視眼的になってしまいます。たとえば「うちは八百屋だから野菜しか売らないんだ」と決めていたら、野菜が不作で取れなかったときに立ち行かなくなってしまいます。しかし、「お客様の食を豊かにする」という懐の広い理念にしておけば、別の事業にピボットできる可能性があります。

 

なぜ理念が重要なのかについて教えてください。

まず経営の判断基準が生まれることが挙げられます。たとえば、理念と照らし合わせて「これは受けなくてもいい仕事だ」とメリットの少ない仕事を減らしたり、逆に収益性が悪くても「これは自分たちがやる意義がある」と判断できたりします。自分たちの大切にしていることを明確にしながら経営活動を行うことで、顧客や取引先からの信頼が深まり、選ばれ続けるブランドが確立されていきます。

 

ブランディングの観点でもメリットが生まれるんですね。

はい。他にも組織づくりの面でもよい影響があります。たとえば、理念が浸透している組織では、社員一人ひとりが「何のために働くのか」という理由をイメージできるようになります。そうした社員は、困難な局面でも踏ん張りが効いたり、創造的な提案をしてくれるようになるでしょう。
また、採用面でも理念に共感した人材が集まることで、ミスマッチが減ったり、離職率が改善するといった効果が期待できます。

 

組織が疲弊しないためにも、理念や経営戦略があるといい

逆に理念がないと、どのような弊害が生じるのでしょうか。

価格競争に巻き込まれてしまう、ということは言えるかもしれません。つまり、判断基準がないことで、とにかく目先の売上を立てるために、どんな案件でも受けてしまうことになり、気づくと「忙しいのにあまり儲かっていない」という状況に陥りかねないんです。

 

そうなると、組織も疲弊しそうですね。

はい。理念がないと「『何を基準に判断すべきか』が曖昧なため、現場で社員が自律的に判断できません。その結果、社員が上司に何でも判断を仰ぐようになり、回答に時間がかかってその先のお客様からのクレームにつながり、その対応で時間が取られる、といったことが起きていくでしょう。
理念に沿った判断基準が浸透していれば、社員からの相談が「こういうことが起きたんですけど、どうしましょう」という漠然とした状態から「理念に照らすとこうだと思うので、こうした方がいいと考えたんですが、どうでしょう」という具体的なものに変わります。最終的な意思決定は上司が行うにしても、その負担は少なくなるはずです。

 

結果的に組織に余裕が生まれそうですね。

その通りです。そうした自律的に働く社員が増えることで、経営者は間違いなく楽になります。しばしば日々の業績を上げることで精一杯で「余裕ができたら理念を考えよう」と後回しになってしまうケースがありますが、順序が逆なんです。業績を安定させ、余裕を生むものこそが理念や経営戦略だと言えます。

 

実践・理念や経営戦略をつくる6ステップ

実際に理念をつくろうとした際には、どのように進めればよいのでしょうか。

基本的には「過去の棚卸し → 現状の理解 → 未来の構想 → 言語化 → 共有 → 実践」という6つのステップを踏むことをおすすめします。
まずは、自社の歴史と原点を振り返ることです。理念は全く新しい概念を発明するものではなく、すでに自社の中にある価値を発見し言語化する作業だと心得てください。下記のような問いをもとに考えを書き出すことで、理念の種となる言葉が見つかるでしょう。

ステップ1:過去の棚卸し

考えるポイント

・創業者は何を志して会社を起こしたのか
・これまで会社が大切にしてきたことは何か
・お客様や地域から、自社はどのように見られ、何を期待されてきたのか
・自分(経営者)自身が、なぜこの仕事を続けているのか

次に、現状を客観的に把握します。SWOT分析や3C分析といった経営フレームワークを活用すると便利です。難しく考えすぎず、A4用紙1枚にまとめる程度で構いません。もし1人で対応するのが難しければ、ビズクリサポーターの力を借りるのもおすすめです。

ステップ2:現状の理解

考えるポイント

・自社の強み・弱みは何か
・顧客は誰で、何を価値として買ってくれているのか
・競合と比べて、自社の独自性はどこにあるのか
・社員はどう感じて働いているのか
・業界・市場・技術・社会はどう変化しているのか

3ステップ目では、過去と現在を踏まえて未来を思い描きます。ここでのコツは、数字ではなく景色で考えることです。「売上○億円の会社」というよりも「どんなシーンが存在する会社」なのかをありありとイメージすることで、戦略の方向性が見えてきます。

ステップ3:未来の構想

考えるポイント

・3年後、5年後、10年後、自社はどうありたいか
・どんな顧客に、どんな価値を、どのように届けている会社でありたいか
・社員はどんな表情で働いている会社でありたいか
・地域社会の中でどのような存在でありたいか

ここまでの素材をもとにして、いよいよ言葉に落とし込みます。理念に関しては、3層構造を意識すると整理できます。戦略に関しては、理念を体現するために「どこで戦い、どう勝つか」を明確にすることを意識してください。文章は短く、社員が暗唱できる程度のシンプルさが理想です。

ステップ4:言語化

考えるポイント

理念
・使命(ミッション):何のために存在するのか
・将来像(ビジョン):どこへ向かうのか
・価値観(バリュー):何を大切にするのか

経営戦略
・誰を顧客とするのか(ターゲット)
・何を提供するのか(提供価値)
・どのように差別化するのか(競争優位)
・どのような順序で実現するのか(ロードマップ)

策定した理念・経営戦略は、つくった瞬間ではなく、共有される中で命が吹き込まれていきます。一度伝えて終わりではなく、100回繰り返して、ようやく半分浸透するくらいの心構えが必要です。

ステップ5:共有

考えるポイント

・いかに全社員に対して経営者自身の言葉で語っているか
・なぜこの理念・戦略に至ったか、背景とストーリーを伝えられるか
・朝礼、会議、評価、採用などあらゆる場面で繰り返し使っているか
・社員からの質問や違和感を歓迎し、対話を続けているか

理念・経営戦略は、日々の経営判断と現場行動に反映されて初めて意味を持ちます。あまり短期間で変更すると、社員が戸惑ってしまうため、一定期間実践し続けることが大切です。最初はあまり浸透しないように感じても、「つくって終わり」になっていなければ、後から効いてくることも実際にあります。

ステップ6:実践

考えるポイント

・重要な判断の場面で、理念・経営戦略に照らして決定できているか
・評価・表彰の基準として活用できているか
・半年~1年に一度、見直しの場を設けているか
・環境変化や自社の成長に応じて、柔軟に進化させているか

ありがとうございます。ちなみに「理念や経営戦略をつくろうと考えているけれど、腰が重くて手を付けられていない」といった経営者の方もいらっしゃると思います。そのような場合は、どうすればよいでしょうか。

そもそも最初から完璧な理念や経営戦略をつくらなくてもいいと考えると、着手するハードルは下がるのではないでしょうか。理念や経営戦略はいきなり完成品を生み出すものではなく、対話と実践を通じて育てていくものです。最初は粗くてかまいません。
まずはラフ案を考えて、試運転する。その中でチューニングを繰り返し、一番しっくりくる言葉へとブラッシュアップしていく方がよいでしょう。最初から「ずっとこの言葉を使い続けるんだ!」と決めきらずに、いつか変更の必要性が生じたら、また考え直せばいいといった感覚で始めても問題ありません。

思考を促す支援者とともに自社の根幹を考える価値

理念や経営戦略を策定するにあたって、支援者の必要性をどのように考えていますか。

理念や経営戦略というものは、専門家に頼めばそれで終わり、といったものではありません。丸投げしてしまっては経営者の魂が入らず、借り物の理念や経営戦略になってしまいます。一方で、自分だけで考えても、自己満足で求心力に欠けたものになってしまうこともあるでしょう。
第三者との対話によって、自身の思考を洗練させたり、自分で考えるだけでは得られない業界や他社の情報を取り入れられたり、より周囲に伝わる言語化のアドバイスをもらえるといったメリットが得られます。
私自身、自社の理念を考えていたとき、第三者にフィードバックをもらったことがあります。そこで「この言葉では、よく分からない」と言われました。自分では「これがいい」と思っても、なかなか意図通りに伝わらないことがあると実感した出来事でした。そうした客観的な観点からの指摘には、とても価値があります。

 

実際に経営者が支援者と共に理念や経営戦略を考えるにあたって、どのようなことを意識すればよいでしょうか。

基本的には「決めるのは自分、考えるのはみんなで」といったスタンスがよいでしょう。理念や価値観、進む方向、人事、重大な投資、社員やお客様への約束などは、経営者の覚悟と責任のもとで下すべき「決定」で、他者に委ねることはできません。一方で、情報収集、考えの整理、選択肢の比較、客観的なフィードバック、専門実務、プロセスの推進などの「思考」のプロセスは、むしろ積極的に他者の力を借りるべきだと考えています。
経営者としては、「主体性を手放さない」「一人の意見に依存しない」「耳の痛い意見こそ大切に聞く」という3点を意識いただくとよいでしょう。
人は都合のいい意見を聞きたがりますが、本当に価値があるのは、自分が見たくない現実を指摘してくれる存在です。こうした踏み込んだコミュニケーションは、AIにはできません。裏を返せば、支援者にも、経営者の主体性を尊重しつつ、耳の痛いことを率直かつ敬意をもって伝える勇気が求められると思います。

 

支援者は、時に経営者にとって見たくない現実を指摘しながら、思考を促す存在であるべきなんですね。

はい。とりわけ支援者には、問いを立てる力が求められます。耳の痛いことを指摘して「じゃあどうすればいいのか」と言われても、正解を提示するのではなく、経営者が自分で気づき、考えられるような問いを立てるのです。というのも、こちらが課題解決策を教えるだけでは経営者の魂が入っていないためしっかり運用されず、成果が出ないことが多いからです。
経営者が納得のいく解に辿り着くまで時間がかかることもあります。さまざまな角度で問いかけたり、思考が深まるまでじっくり待ったりと、対話を深めながら一緒に考えていくのが支援者の使命だと思っています。

 

「全部自分で考える」でも「全部任せる」でもなく、自分が決めるべきことは自分で決め、頼るべきことは堂々と頼るという切り分けが大切なんですね。今日はありがとうございました。

経営者と支援者の関係は、主従でも依存でもなく、共に考え、高め合うパートナーシップであるべきだと思います。こちらこそ、ありがとうございました。

 

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