組織や事業の整理・可視化を。ビズクリとともに企業の「未来」を見やすくする
早川 友紀恵はやかわ ゆきえ
東京工業大学卒業。政府系機関で補助金・助成金事務局業務に従事後、政策研究大学院大学にて政策・補助金効果の統計的分析に関する研究を行う。(政策研究科修士) ボストンコンサルティンググループ、電通国際情報サービス、ユー・エス・ジェイで、業務改善支援や新規事業開発、オープンイノベーション推進等を担当。その後、マジェステ株式会社を設立。
経営者と二人三脚で歩む。中小企業支援に見出したキャリアの軸
まず早川さんのキャリアからお伺いできればと思います。
大学で都市政策などを学んだのち、新卒で入職したのが芸術文化振興会です。そこでは、補助金をはじめとして芸術団体や芸術家向けの支援事業を行っていました。ただ、国が定めた芸術振興策に則って制度を運用するのではなく、制度そのものを自ら考えたいと考えて、その後政策研究大学院大学に進学しました。
もともと芸術や政策の分野でキャリアを築かれていたんですね。そこから、なぜ現在のようなビジネスの分野に進もうと考えられたのでしょう?
研究を進める中で感じたのが、政策を変えるには多くの労力と時間がかかるという課題です。それならば、社会に対してスピーディにインパクトを与えられるビジネスの分野で貢献したいと思い、キャリアを再考しました。そこから、外資系コンサルティング企業のボストンコンサルティンググループ、大手IT企業の電通国際情報サービス(現:電通総研)といった企業でキャリアを積みました。業務内容も、新規事業の立ち上げ支援からオープンイノベーションの推進、AIを活用したソリューション開発など多岐に渡ります。
大手企業を対象にしたビジネスを経験されてきたように思うのですが、現在早川さんが携わっている「中小企業の経営支援」というキャリアはどのようにスタートしたのでしょう?
夫が家業のゴム製造会社を手伝うことになったこととコロナ禍がきっかけです。夫婦で夫の地元である兵庫県に移り、私は関西の企業に転職しました。さらに併行して、副業として夫とともにマジェステ株式会社を立ち上げ、夫の家業をはじめ中小企業を対象にした補助金分野のコンサルティング事業をスタートさせました。その後、コロナ禍に突入し、これまでにない時間が生まれたことと補助金獲得支援のニーズも高まっていたこともあり、企業を退職し、本業として補助金分野のコンサルティングにコミットすることにしました。
大手企業のビジネスから中小企業の経営支援へ軸足を移したことで、どのような意識の変化がありましたか?
大手企業のビジネスに関わっているときは、スケールの大きな事業に携わることができるというやりがいに満ちていた一方で、規模が大きい分、企業の組織や事業全体に変化を与えることは難しいという実感がありました。しかし、中小企業の補助金申請支援を行っていると「将来こんな事業をつくってこんな企業にしていきたい。そのためにこんな投資が必要なんだ」という経営者の想いに直接触れることができます。経営者と二人三脚で組織や事業全体に影響を与えることができるのが、大きな魅力だと感じるようになりました。
ビジネスモデルをも刷新する、補助金申請支援の真の価値
補助金申請支援の価値について、どのように考えていますか?
マジェステが支援しているような、国が実施している大型の補助金だと「その企業が、どれだけ投資する意義があるか」という観点で審査されます。つまり、企業は「どんなビジョンを持って、どんな価値を生み出してきて、補助金の活用によって今後地域や社会にさらにどんな貢献ができるか」などの視点をもとに何枚もの書類を作成する必要があるんです。しかし、そこまで思考を整理されている経営者の方は決して多くはありません。そこで、私たちが経営者の方に深くヒアリングして、企業の過去と現在と未来を整理・可視化していくプロセスが価値を持つと考えています。
単に書類作成を代行して、補助金の採択率を高めるだけではないんですね。
はい。「こういう設備を購入したい」「こんなシステムを導入したい」という投資計画はあっても、「その投資によって、組織や事業にどんな変化があるのか。その変化によって、どんな社会的インパクトを生み出せるのか」といったところまで踏み込んで考えることが重要です。そんな中長期的な観点で対話を重ねる中で「これから自分たちが進むべき道がわかった」「やるべきことがはっきりして、やる気が出てきた」と言っていただくことも少なくありません。
とはいえ、「組織や事業を整理したい」というより「まずは補助金を獲得したい」という理由で相談に来られる方もいらっしゃるのではないかと思うのですが、いかがでしょう?
そうですね。ただ、「単純に建物を新設したい」という目的で補助金を申請しても通らないことが多いのが実情です。採択されるためにも「その先にどんな事業展開を生み出せるか」を一緒に考えて、見通しを立てることが重要になります。
ひとつ実例を紹介しましょう。以前、「オフィスを新設したい」と補助金申請を検討していた企業様がいらっしゃったんです。そこで上記のような採択されにくい現状をお伝えした上で「オフィスを新設するタイミングで、新たにチャレンジしたい事業はありますか?」と尋ねました。すると、「そういえば、これまで対面販売のみだったけれど、いつかECを活用してオンラインで販売していきたいと思っていたんです。そして将来的には海外にも販路を広げられたらいいなと考えています」という展望を話してくれたんです。単に「オフィスを建てる」という目的から「ビジネスモデルを刷新する」という目的へ、視点が変わった瞬間でした。そのような理由ならば、採択される価値も高まりますし、オフィスの新設だけでなくECシステムを開発する資金も支援される可能性も生まれます。そんな会話をしている中で、経営者の方もモチベーションが高まり、「海外展開も視野に入れたEC事業の立ち上げ」を目的として申請書を作成したケースがありました。
単に「資金を得る」だけでなく「ビジネスモデルを刷新する」ところまで価値を提供された気がします。
マジェステのスローガンは「『未来』を見やすくし、企業に原動力を」です。会社のビジョンを実現するために、どんな課題があり、どんな支援を受け、どうやって事業を展開すれば、そこへ到達できるのか……そういった項目を数値計画まで含めた具体的な実行プランへと落とし込んでいきます。そうやって整理・可視化された実行プランは、企業を進むべき道のりへと導く力があるはずです。
ただ、そのような整理・可視化は、なかなか一人では上手くいきません。政策分野や補助金分野、ビジネス分野とキャリアを築いてきた知見を活かして、中小企業の経営者のみなさんに伴走できればと思います。
より多くの人に価値を届けるためのクラウドサービス「KAKERU」
マジェステは、補助金申請に必要な事業計画書の作成を支援するクラウドサービス「KAKERU」を開発・運営しています。このサービス開発に至った背景について教えてください。
ありがたいことに、補助金申請支援のお問い合わせを多くいただいているんですが、マンパワーの関係で全ての方に弊社のコンサルティングを提供できるわけではありません。また、私たちのコンサルティングサービスは丁寧に時間をかけて行うため、どうしても一定のフィーが発生します。補助金額によっては、コンサルティングフィーの割合が高くなってしまって、あまり企業様にメリットが生まれないこともあります。
一方で、経営者の方が何のガイドもない中で、ゼロから申請書を作成するとなると、募集要項を読み込んで様式に合わせた書類を作成するだけで多大な工数がかかります。かといって採択されやすい書類を作成できるとは限りません。そこで、たくさんの補助金申請支援を行ってきた私たちの知見をもとに、時間をかけずに採択率を高められるような申請書類を作成できるツールを開発したいと思ったんです。
クラウドサービスを開発することによって、より多くの中小企業経営者に価値を提供できるようになると。
もともと私も夫もIT業界で働いていたことがあったり、新規事業の立ち上げを行っていた経験があります。そのようなバックグラウンドを持った人間として、これまでになかった価値をクラウドサービスとしてかたちにして、世の中に広く提供したいという想いがありました。それにKAKERUのユーザーとして対象にしているのは、中小企業経営者だけではありません。
と、いいますと?
コロナ禍で、税理士をはじめ中小企業の支援をされている士業の方々が補助金の支援を依頼されるケースも増えました。しかし、なかなか経験も時間もなく、満足いく支援ができないという声をよく聞いていたんです。だからこそ、KAKERUは、そういった士業の方々にも使っていただきたいと考えています。そうすることで、士業の方々が顧問先企業に提供できるソリューションの幅が広がりますし、そういった支援によって助かる中小企業経営者も増えるはずですから。
ビズクリと連携して、企業の未来をつくる支援を
現在、マジェステはビズクリと連携を進めています。どのような背景でビズクリと関わるようになったのでしょうか?
もともとのきっかけは、とあるアクセラレーションプログラムで、メンターの方からビズクリ代表の伊藤さんを紹介いただいたことです。お話をお伺いすると、経営戦略という観点で企業の成長の方向性を整理・可視化するというビズクリのアプローチと、マジェステやKAKERUのアプローチが親和性が高いと感じました。
クラウドサービスで、より多くの人に価値を提供したいという点も近しいところがあるように思います。
実はマジェステも、補助金の採択だけでなく、組織や事業の整理・可視化にもっとフォーカスしたクラウドサービスを開発したいと考えていたんです。しかし、本気で取り組もうとすると、パートナーを集めたり、宣伝・広報をしたり、オペレーションを整えたりと多大なパワーやコストが発生します。「やりたい」という強い想いはあるものの、現実的にマジェステ1社で真に価値あるサービスまで高めることは難しいと考えていました。そんなとき、私たちが提供したい価値を実現しようとしている伊藤さん、そしてビズクリに出会ったんです。伊藤さんが代表を務めている、ビズクリの運営会社・BCC株式会社は上場も果たしていますし、しっかりとした企業基盤やネットワークがあります。マジェステが単体でゼロからサービスを立ち上げるより、ビズクリと協業して足りないものを補い合うことで大きな社会的なインパクトが出せると考えました。
具体的にビズクリと、どのように連携していきたいと考えていますか?
ビズクリは、経営戦略という大上段から企業のあるべきかたちを考えていくことができるツールだと思います。そのプロセスの中で、資金調達や設備投資のようなニーズが出てくるはずです。そんなときに、KAKERUのクラウドサービスやマジェステのコンサルティングが力になれたらと考えています。たとえば、ビズクリクラウドで整理・可視化された経営戦略を見れば、きっと補助金の申請書類も効率よく作成できるはずです。
最後に、ビズクリとともに提供していきたい世界観を教えてください。
中小企業の中には、代々続く老舗企業も多いと思います。これまでの伝統にはしっかり敬意を持ちつつ、過去だけでなく未来にも視野を向けて、これから進むべき道のりや目標を整理・可視化させていただくことは価値あることだと考えています。日々の事業運営がある中で、なかなか経営者の方一人で未来のことを考えるのは、簡単ではありません。だからこそ、私たちが介在して、考えるきっかけを提供することに価値があると信じています。そうやって、未来をつくるお手伝いをさせていただけたらと思います。