【前編】理念・ビジョンがないとどうなる?4人のビズクリサポーターに聞いた「理念・ビジョン・経営戦略」のQ&A

礒 亮次 いそりょうじ

倉島 悠輔 くらしまゆうすけ

藤原 正幸 ふじわら まさゆき

松元 孝宣 まつもと たかのぶ
Q.理念・ビジョンの必要性をいまいち理解できていません。理念・ビジョンをつくらないことでどのような弊害が生まれるのでしょうか?
礒亮次さん:

理念・ビジョンがないということは、経営の判断軸となる価値観が存在しないということです。そうした状況は経営者自身、そして組織全体に一貫性のない発言・行動を生んでしまいます。たとえば、社長が「従業員に日頃からこういう風に仕事をしてほしい」と思っていても、土台となる価値観が明文化されていなければ、それぞれの従業員が社長の考えと異なる行動を取るようになるでしょう。
倉島悠輔さん:

理念・ビジョンを言語化していない場合、「なぜその仕事・事業をしているのか」「なぜ世の中に必要とされているのか」といった存在意義が自分でもわからなくなってしまいます。そうなると、従業員や顧客などのステークホルダーからの求心力が失われてしまうでしょう。難しい経営判断が迫られたときに、自分でもどうしたら良いかわからない、ステークホルダーに何を伝えたらいいかわからない、といった弊害が生じると考えられます。
また、経営戦略は、継続的に成果を上げていくために必要なものです。成果を求めないのであれば、貴重な人生の時間を費やしてまで、その仕事・事業をする必要はないという見方もできてしまいます。
藤原正幸さん:

理念やビジョンは、会社の成長フェーズが進むほど、その重要性が増していくものです。具体的には、社内においては「社員が目指すべき方向性(ベクトル)を一致させる」ために機能します。また社外に対しては、ステークホルダー(利害関係者)の皆様に自社の進む道を理解・共感していただき、共に事業を発展させていくための強固な関係性を築く礎となります。
もし、理念やビジョンがないまま事業を推し進めてしまうと、社内外に対して「自社がどこを目指しているのか」が伝わりづらくなり、周囲からの協力を得ることが難しくなります。結果として、企業の成長スピードが鈍化したり、組織をスケールアップ(拡大)していく際の大きな足かせになったりするリスクが生じてしまいます。
松元孝宣さん:

理念・ビジョンを掲げなくても会社は回りますし、実際に儲かっている会社もあります。ただ、理念・ビジョンが明文化されていないと、場当たり的な経営判断がなされたり、経営者の頭の中にしか判断軸がないため現場で意思決定ができなかったりといった弊害が生じるでしょう。また、組織が拡大するほど綻びは広がっていくと考えられます。つまり、理念・ビジョンがないことによる経営実務上の問題は「判断軸が共有されない」ことに尽きると思います。
Q.理念・ビジョンをつくりたいと思ってはいるけれど、目の前の業績をあげることで手一杯になってしまいます……。
礒亮次さん:

まずは「やらないこと」を決める。その次に「何を継続するか?」を決める。この2点を整理・整頓するだけで、理念・ビジョンについて考える余力を生み出すことに有効だと思います。これまで漠然と「業績を上げるためには必要だ」と考えていたことでも、「本当にこれをやらなかったら業績は傾くのだろうか」と、一度立ち止まって問い直すことで、真に必要なことが明確になるはずです。実際に私自身も、このやり方を実践しています。
倉島悠輔さん:

まず「月に一回1時間でも理念・ビジョンについて誰かと話す」「定例会議のアジェンダとして10分だけでも組み入れる」など、強制的にあらかじめ時間をセットしておくことをお勧めします。仕組みによって解決していきましょう。
藤原正幸さん:

目の前の業績を最優先にすべきフェーズでは、理念づくりに自社のリソースを割くのが難しいケースは多々あります。
もし、社内のリソースや時間的な余裕が不足しているのであれば、外部の専門家を活用することをおすすめします。これまでの会社の歴史やご自身の経験、そこから生まれた価値観や経営マインドなどを専門家にヒアリングしてもらい、言語化・集約を進めてもらう方法です。
専門家の力を借りて客観的な視点を取り入れることで、日々の業務に集中しながらでも、スムーズかつ納得感のある理念・ビジョンづくりを進めることができます。
松元孝宣さん:

理念・ビジョンや経営戦略は「時間ができたらやる仕事」ではありません。むしろ「時間をつくるためにやる仕事」です。おそらく「忙しい」と言われる理由の大半は「何をやり・何をやらないか」を決めていないからでしょう。いきなり会社の全てを良くしようとせず、まずは「何を伸ばして・何を捨てるか」という優先順位をつけることから始めてみられてはいかがでしょうか。そして「なぜその項目を捨てたのか」とその理由を言語化してみることで、理念づくりに取りかかる糸口が掴めるかもしれません。

Q.理念・ビジョンや経営戦略の必要性を感じてはいるが、どのように進めればいいかわかりません。どのくらいの時間をかけて、何を行うべきなのでしょうか?
礒亮次さん:

理念・ビジョンづくりの期間として、最低でも3ヶ月以上は必要なのではないかと考えています。実は私自身、昨年は半年以上自分と対話を続けて、ようやく志をアップデートすることができました。
行うべきことの要点としては、これまでの会社の歴史、経営者自身の生い立ちや家系、原体験などを振り返りながら、まずは「経営者個人」の価値観・倫理観がどのようなもので、それはどのように生まれてきたかを見つめ直すことです。それを起点に経営者の熱い思いが詰まった会社の目的を定めて、それを実現するための経営戦略を策定する、というステップが大事であると考えています。
倉島悠輔さん:

普段私が行っている支援では、経営者やキーパーソンへのヒアリング、他者事例の紹介、ワークショップによる社内言語の収集などを行なって言語化を進めていきます。どのようなスパンで行うかにもよりますが、おおよそ3ヶ月あれば形になるのではないでしょうか。
また、異なるアプローチとして生成AIを活用する手もあるかもしれません。たとえば「自社の情報をAIにインプットする→好きな企業や活躍している同業の理念・ビジョンをリストアップしてもらう→リストを参考に自社のスタンスに近いものを選定する→選定した言葉を参考に、自社らしい理念・ビジョンを考える」といったやり方です。
藤原正幸さん:

理念・ビジョンや経営戦略の策定は、一般的に半年から1年程度の中長期的なスパンをかけ、段階を追って丁寧に進めていきます。
まず理念・ビジョンの策定においては、組織や経営者の根底にある想いをどれだけ忠実に言葉に落とし込めるかが鍵となります。うわべだけの美辞麗句に終始せず、自社の本質を表しているかを常に念頭に置くことが重要です。
一方、経営戦略の構築においては、有形・無形を問わず「自社の経営資源」を棚卸しすること、そして「外部環境の変化」を予測した上で、市場に対してどのような打ち手を打つかを明確にすることが第一歩となります。
このように大局観を持った上で、日々の具体的なアクションプランへと落とし込み、定期的な進捗確認の仕組みを作るまでが一連のプロセスとなります。
松元孝宣さん:

理念・ビジョンや経営戦略は、何もないところからゼロベースで考えて言葉にするものではありません。むしろ、今まで無意識に行っている判断やアクションを改めて言葉にする作業だと思っています。
まずは難しく考えず、今取り組んでいる仕事の仕分けから始めてみると良いのではないでしょうか。「もしまたこの仕事がやってきたら引き受けるのか、引き受けないのか」「それはなぜか」という問いを繰り返せば、経営者の判断軸は比較的早い段階で明らかになってきます。
どの程度の精度を求めるかにもよりますが、理念・ビジョンの骨子であれば1~2か月で言語化することもできると思います。
Q.理念・ビジョンや経営戦略を自社でつくろうかと考えています。理念や経営戦略を構築するのに支援者を入れることには、どのような意義があるのでしょうか?
礒亮次さん:

もし「経営者自身が誰にも頼らず1人で理念・ビジョンをつくりたい」と考えている場合、近視眼的になってしまうリスクが高いと思われます。著名な経営者には優秀なメンターの存在があると言われています。ビズクリサポーターも経営者が1人で考えるときの盲点や死角を一緒に洗い出せるような存在であれたらと考えています。
倉島悠輔さん:

経営者が1人で考えると、スケジュールやモチベーションの管理がなかなか難しいのではないかと思います。上記の質問で生成AIに頼るアプローチも紹介しましたが、しっくりくる言葉に辿り着かなければ、そこで理念・ビジョンづくりはストップしてしまうこともあるでしょう。中だるみすることなく、実効性のある言語化を完遂できることは、支援者を入れるメリットだと思っています。
藤原正幸さん:

自社だけで策定を進めようとすると、どうしても主観に偏ってしまったり、過去の延長線上でしか考えられなくなったりすることがあります。そこに専門的知見と客観的な視点を持つ支援者が介在することには、非常に大きな意義があります。
支援者と共に形にしていくプロセスを通じて、理念や経営戦略が持つ本来の効力や意味を、より深く理解できるようになります。「どのような観点が重要なのか」「どのようなプロセスが有効なのか」「どのレベルのクオリティが求められるのか」といった、本質的な視点を得ることができるからです。
最大の意義は、理念や経営戦略を単なる“お飾り”で終わらせず、企業の成長を牽引する本当の意味での“資産”へと昇華させられる点にあります。
松元孝宣さん:

理念・ビジョンや経営戦略は、経営者自身が決定するものだという考え方に異論はありません。しかし、自分1人の視点だけで考えると行き詰まったり、共感されづらいものになったりといった弊害が起こり得ます。経験上、支援者が関与することの意義として、思考を深められる、一貫性を担保できる、独りよがりでなく他人に伝わる言葉になる、といったことが挙げられると考えています。

Q.支援者に何を・どこまで・どのように頼るべきか、迷っています。最後に、経営活動において自身で決定するべきこと・他者に頼ることの切り分けをどのように考えたらよいでしょうか?
礒亮次さん:

「経営者自身が責任を取らなければならない領域」に関しては、自身で決定するべきことにし、それ以外のコアではない部分については積極的に他者に頼っていいのではないかと思います。
第三者の意見を取り入れる上で、経営者が留意するべきポイント・求められるスタンスに関しては、常に「自分はこうだと思う」という仮説を持った上で、第三者の意見を取り入れることだと思います。情熱や意志がないまま議論を交わすこともなく、第三者のアドバイスをただ受け入れるだけでは、借り物の理念・ビジョンや戦略になってしまいます。
倉島悠輔さん:

あくまで「思考すること・実行すること」は経営者の領域だと認識した上で、時間・リソースを鑑みながら内製するべきことと第三者に頼るべきことを切り分けていけばいいのではないかと考えます。
今後ますます生成AIが普及していくと「回答が煮詰まってきたから、人と話したい」「それっぽい言葉にはなったが、なんだか自社にフィットしていない気がする」といったシーンが増えてくるでしょう。そうした時にビズクリサポーターのような支援者の存在を思い出してもらえたらと思います。
藤原正幸さん:

経営活動における役割の切り分けは、「法的な実務や定型業務は専門家へ委託し、経営判断を伴うコア領域は経営者がオーナーシップを持つ」というスタンスが基本となります。
具体的には、税務や労務など、ルールや正解が明確に定められている分野については、外部の専門家に全面的に頼るべきです。一方で、会社の未来を決める経営活動そのものにおいては、最終的な意思決定を行うのは経営者自身にほかなりません。
もし経営戦略や理念づくりのようなコア領域で支援者を活用する場合は、支援者に判断を委ねるのではなく、「最適な経営判断を導くためのパートナー」として位置づけるのが理想的です。経営者自身の潜在的な想いを引き出し、新たな気づきや客観的な視点を提供してもらう役割として認識いただくことで、主体性を保ったまま外部の知見を最大限に活かすことができます。
松元孝宣さん:

繰り返しにはなりますが、決断と責任は外注できません。第三者に求めるべき役割は、「考えを深めるための壁打ち相手」「選択肢の抜け漏れを防ぐための助言者」「整合性・一貫性のチェック役」「他者に伝わる言葉に変える翻訳家」「決断を後押しするコーチ」といったところでしょう。
丸投げも、「参考意見として聞くだけ」といったスタンスも、おすすめはしません。
まとめ
今回は、理念・ビジョンや経営戦略の必要性とつくり方、そして支援者との関わり方を中心に、様々なバックグラウンドを持つ4人のビズクリサポーターが答えてくれました。 経営者の頭の中にあることを整理・整頓し、明文化することで、戦略を資産にする一歩目を踏み出すことができます。 次回は、さらに異なる経歴や知見を持つビズクリサポーターに聞いた回答もご紹介したいと思います。

