ビジョン策定は人材育成にもつながる。プロジェクトで変容した、人と組織
2024.04 03
  • Writing

    Takumi Kobayashi

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    Thesaurus inc.

ビジョン策定は人材育成にもつながる。プロジェクトで変容した、人と組織

「経営者のガイドランナー」としてサービスを展開しているビズクリ。実際にサポートを行うメンバーは、どのようなコンサルティングを実施しているのでしょうか? 今回紹介するのは、ビズクリの発起人であり、自らもビズクリサポーターの一人として活動する中小企業診断士・伊藤一彦のケーススタディ。ビズクリクラウドを活用したビジョン策定によって、人と組織を変容させていった事例について聞きました。
ビジョン策定は人材育成にもつながる。プロジェクトで変容した、人と組織
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伊藤 一彦

伊藤 一彦 いとうかずひこ

BCC株式会社 代表取締役社長 中小企業診断士

IT営業の人材を育成し、大手企業に派遣するIT営業アウトソーシング事業と、介護レクリエーションというユニークなアプローチのヘルスケア事業を展開するBCC株式会社を経営する。2021年に東証マザーズに上場。「経営戦略を立て、実行する」。そんなシンプルなルールを忠実に実践することで、着実な事業成長を実現してきた。地域のビジネスコンテストの審査員やアクセラレーションプログラムのアドバイザーとしても活躍し、経営の鉄則を伝えている。

ビジョンを言語化し、「数字」に意味を

まず、どのようなクライアントだったのでしょうか?

大阪南港エリアで大型複合施設の運営を行っているアジア太平洋トレードセンター株式会社(以下、ATC社)です。もともと複合施設内の一部門の戦略策定から運営までBCC株式会社(以下、弊社)が担当したこともあり、2022年にATCのビジョンや経営戦略を策定したいという相談を受けました。
実際に相談をいただいた経営陣から、「社員に対しても、これからATC社がどんなところへ向かって・どのように進んでいくかを示していきたい」という課題も伺いました。そのため、売上や利益といった数値目標だけでなく言葉でもATC社の進む道を示していこうと提案したんです。

その提案に対して、ATC社の反応はいかがでしたか?

「たしかにその通りですね!」と好意的に受けとめていただきました。「ビジョンが重要である」とは認識しつつ、ただ、組織を突き動かしていく言葉を打ち立て、運用していくのは難しいことです。このような課題には、ビジョンを言語化し、それを実現するための経営戦略を策定してモニタリングをしていく、というアプローチが効果的です。このアプローチは、ビズクリにも大いに取り入れています。

会社の未来を担うメンバーが、当事者意識を持って関われる場に

具体的に、どのように支援を行っていったのでしょうか?

最初に取りかかったのが、ビジョン策定を行うプロジェクトメンバーの人選です。10年以上先のビジョンを策定することになったので、主要なメンバーには現状の部門長ではなく、10年後の会社を支えるであろう30代から40代の若手・中堅社員を、各部署から選抜してもらいました。

経営層のトップダウンではなく、現場からのボトムアップでビジョンをつくるんですね。

はい。その方が、現場の最前線で活躍している社員が当事者意識を持てるため、ビジョンをつくる策定フェーズから、ビジョンを達成するための実行フェーズに移ったときにスムーズに移行できるんです。

その後、どのようなステップを踏んでいったのでしょうか?

まず選抜されたメンバーとオブザーバーとして参加する部門長に集まってもらい、計画している策定プロセスについてオリエンテーションを行いました。約半年間、月に1回程度定期的に全員が集合し、提示したテーマに沿ってディスカッションをしていくことや、毎回課題を渡すので次回のディスカッションまでに取り組むことなどを伝えました。

実際にプロジェクトが始まってからは、3C分析やSWOT分析などの経営戦略のフレームワークをもとにディスカッションを重ね、議論のプロセスも記録していきました。毎回イチから考えるような議論を続けても、ビジョンをかたちにすることはできません。これまでの議論を踏まえながら、意見を積み重ねていった先に初めてビジョンはかたちになります。

毎月実施されるディスカッションの中で、特に意識していたことはありますか?

プロジェクトメンバー全員が率直に意見を言い合える場をつくることです。そのために、さまざまな工夫を行いました。あえて海が見える開放感のある会議室を選んだり、テーマによってはオブザーバーとして参加していた部門長には参加を遠慮してもらったり、毎回チームごとにその日のリーダーを決めて進行をリードしてもらって当事者意識を引き出すこともしました。
私としても発言の心理的ハードルを下げるため「10年以上先は、基本的には仮定の話。だから、現在の自分の立場を意識しなくても大丈夫。ピュアに『こういう組織や、こういう未来をつくりたい』という話をしてくれればいい」というメッセージを伝えました。

自然と議論が盛り上がるようなコミュニケーションを設計するんですね。

ビジョンを言葉にするのは、私ではなく、メンバーのみなさんです。だから、いかにみなさんが、考えやすい・発言しやすい場をつくれるかは、とても重要です。ディスカッション中は、常に一人ひとりの発言や表情を注意深く観察して「どのような声かけや問いを与えればいいのか」「どんなメンバーとディスカッションしたら相性がいいのだろうか」といったことを考えていました。そのような観察から得られた情報をヒントに場を設計していくんです。

なぜ、そこまで場づくりにこだわったのでしょうか?

言語化されたビジョンというアウトプットはもちろん、考えを深め、意見を交わすプロセス自体にも大きな価値があると考えていたからです。
ディスカッションの中では、さまざまな意見を集約しなくてはならない場面があります。その際、どのように集約させるか、他部署との兼ね合いをどうするか、などメンバー同士で悩むことも少なくありません。でも、悩んだり迷ったりするということは、それだけ思考が磨かれるということです。議論を活性化させることには、そのような意図がありました。

主語を「自分」から「組織」へと変えていく

最終的には、どのような成果が生まれたのでしょうか?

ATC社の10年後のビジョンを定め、経営陣へのプレゼンテーションや全社へ発表する機会を設けました。そして、外部にも発信できるように、ロゴやスローガン、ステートメントも制作しました。プロジェクトの過程では、悩んだり迷ったりと苦労もあった分、上記のようなアウトプットが完成したときには、「みんなで一つのものを作り上げた」という一体感が生まれていたように思います。
それだけ愛着のあるビジョンをつくることができたので、完成後は「ビジョンの実現に向けて、どんなことをすればいいだろうか」という議論がメンバー内で自然発生的に生まれていました。まさに狙い通りの展開だと言えます。

2023年度は「若手・中堅社員が考える2030ATCのありたい姿」のビジョンを言語化することに注力しました。そして、次のステップとして全社ビジョンの策定につながっていきます。

プロジェクトを経て、組織をつくっていく当事者意識が芽生えているように思います。

実は、ビジョンや経営戦略の策定は、人材育成の側面も大いにあります。普段仕事をしていると、自分や自部署の業務の範囲内に視野が留まってしまいがちです。むしろ、他の人や部署について口を出してはいけないと思っているケースも多いと思います。しかし、ディスカッションでは、「全社的なビジョンを策定する」というプロジェクトの特性上、自分以外の部署にも視野を広げないといけませんし、他部署のメンバーとも積極的にコミュニケーションを取らないといけません。そんなプロセスを経ると、「他の部署はこんなことをしていたのか」「実は自分の会社ってこういう組織なのかもしれない」といった気づきが生まれます。そして、主語が「自分」から「組織」へと変わっていくんです。将来的に組織の中核を担うメンバーの、このような意識変容はとても価値あることだと思います。

最後に、これまでの支援を振り返り、感じている手応えと今後の展開について教えてください。

部門長からは、プロジェクトメンバーのみなさんは前向きに仕事に取り組むようになったという声を聞いています。
もちろんビジョン策定は、個々人の成長だけでなく、企業としての成長にも寄与しなければいけません。大切なのは、「ビジョンを描いて終わり」ではなく「ビジョンを実現すること」です。当社が提供しているビズクリクラウドも、ビジョンメイキングから経営戦略の策定、具体的なアクションプランまでを一貫してサポートできるツールとして開発しています。中長期的な企業の発展を担保していける事例をさらに増やせるよう、これからもサービスを磨いていきたいと思います。