企業の体幹を鍛える。理念・ビジョン・戦略の3本柱で変革を粘り強く支援していく。
青木 宏人 あおき ひろと
中小企業診断士として、企業のありたい姿の実現をサポートする。経営者との対話を重視しながら、企業の根本となる経営理念を打ち立て、中長期的なビジョンを策定し、実現のための経営戦略の実行支援を行うというスキームで数々の企業の変革をリードしてきた。丁寧に時間をかけて伴走することで、短期的な売上ではなく持続的な成長を遂げるための企業の”体幹”づくりを可能にする。
失敗を受け入れ、学び続ける。将棋で培った習慣がキャリアを支えた。
まずは経歴から教えてください。
学生時代は将棋にのめり込み毎年全国大会にも出場していました。そのままプロ棋士を目指そうと思ったんですが、全国の強豪を目の前にして夢破れ、パチンコメーカーに就職したんです。もともとパチンコは経験したことがなかったんですが、配属された営業の仕事に没頭していきました。当時大阪の営業所だったんですけど、自分で期間を設定して大阪や兵庫にあるパチンコ屋を全店舗回ると決めたんです。都市部だけでなく地方にもわざわざ商談に行くような営業は私だけでしたね(笑)。その結果、経験が少ない若手社員ながらも営業所の中ではトップの成績でした。
それほどのめり込んでいた営業の仕事から経営支援の仕事に興味を持つようになったのは、どのような背景があるのでしょうか?
営業としてお客様から信頼を獲得していくと自然と相談される内容が広がっていきます。たとえば「人材採用をどうすればいいのか」「競合店舗との違いをどうやって打ち出していったらいいのか」など。そういった悩みごとをせっかく相談してくれるのに、うまく応えられない自分がいて。もっとお客様に喜んでもらうために、もっと一段階踏み込んだ提案ができるようになるために、いろいろな知識を身につけるべきだなと感じたんです。そこからマーケティングを独学で学んだり、販売士という検定を受けたりする中で、経営戦略に目覚める決定的な出来事が起こりました。
それはどういったことでしょう?
たまたま、会社の経営陣と話す機会があったんです。名目は「ITシステム導入にあたっての現場ヒアリング」でした。ただ、経営陣に直接意見を言える機会なんてめったにないので、私はもっと会社を良くする提言をしようと決めていたんですよ。当時のパチンコ業界は、メーカー側の売り手市場でした。人気製品はよく品切れがおきて、お客様をお待たせしていたり、代わりにそのほかの製品を買ってもらったりするケースもあった時代だったんです。だから「もっと会社全体でお客様に寄り添った姿勢に変わるべきだ」と伝えようと考えました。
その結果、どうなったのでしょう?
当日まで仲間たちと「意見をぶつけてやるぞ!」と意気込んでいたんですが、実際に経営陣を目の前にするとみんな萎縮してしまって、誰一人意見を言うことができなくなってしまった。そんな中で私だけ何回も手を挙げて、会社に変えてほしいことを訴え続けました。でも、当時の常務から「元気はいいけれど、何を言っているかわからない」とばっさり言われてしまったんです。たしかに当時の私は営業の世界しか知らず、開発や財務など会社全体を俯瞰して見る観点はありませんでした。その帰り道に「経営のことを全く自分はわかっていなかった」と大いに反省して本屋に直行し、中小企業診断士試験の参考書を買って、その日から勉強をはじめたんです。
マーケティングを学んで販売士の検定を受けて、次は中小企業診断士の資格取得に取り組む……反省してすぐに行動につなげるエネルギーが凄いですね。
振り返ると、このマインドは中高生時代にのめり込んだ将棋のおかげだと思っています。将棋という競技は、負けたらその要因は自分にしかありません。上達するには、他責にせず、負けを素直に認め、自責として捉え、どうしたら強くなれるのか学び続ける姿勢が重要です。その繰り返しの中で身につけた習慣は、キャリアの中で生きていたなと思いますね。
創業当初の苦境を脱したのは、自分の志と強みを徹底的に見つめ直したから。
その後、中小企業診断士の資格取得に向けて動かれたと。
営業として働きながら6年間ほど勉強を続け、34歳のときに中小企業診断士の試験に合格しました。当初は企業内診断士として、会社の中で知見を活かそうと思ったんですが、勉強する内に経営コンサルタントとして独立するキャリアを考えるようになったんです。2007年に資格を取得してから、1年間は独立までの準備期間だと決めて、さまざまな勉強会に顔を出しました。「ビズクリ」を立ち上げた伊藤さんも、勉強会で出会った一人でした。そこでバランススコアカードを活かした経営戦略の大切さにも気づかされましたね。
そして、1年間の準備期間を経た2008年。意気揚々と独立を果たします。
実際に独立してからはいかがでしたか?
経営コンサルタントとして新たなステージに立つからには「今までの延長線上ではなく、新たな自分の可能性を試したい」と思い、パチンコ業界から離れることを決めました。
当初は「体力・やる気・根気はものすごくあります。だから何でもやります」というスタンスでしたね。でも、裏を返せば「何でもやる」というのは「何にもできない」ということと同じで、専門性のない人には、仕事が来ません。1年目は1ヶ月の売上が数万円という時期もありました。家族を養うことができず、妻の実家で過ごさせてもらったこともあります。
そのような状況をどのように打開したのでしょうか?
ただ、そんな中でも学ぶことは止めませんでした。勉強会に参加したり、膨大な本を読んだり、バランススコアカードのセミナーを受講したり、ときには辞書を片手に世界の経営戦略の論文も読みあさっていました。そういった知識面のアップデートをしつつ、併行して「そもそも何のために自分は起業したのか」「自分だからできることは何か」自分の志や強みを見つめ直していったんです。
そこで辿り着いたのが、やはり将棋の原体験。将棋とは、戦略を立て、20個の駒をやりくりしながら「相手の王将を詰める」という目的をスピーディに達成する競技です。そのやり方は、経営戦略を策定し、経営資源をやりくりしながら、「お客様のビジョンを実現させる」という目的を最短経路で実現する経営コンサルタントのビジネスと通じるものがあります。「将棋で磨き上げられた戦略的な思考回路を活かし、お客様のビジョン実現をサポートする」……それこそが自分の使命だと定義してから努力の方向性が定まりました。そこから一気に状況が好転し、2年目以降順調に事業成長を遂げることができています。
組織風土が変わり、売上は3倍に。大切なのは、経営理念・ビジョン・戦略がかみ合うこと。
普段、経営支援を行う上で意識していることはありますか?
私の支援は、企業の体幹を鍛えるようなスタイルです。だから、「数ヶ月ですぐに売上を上げる」といった短期的な支援は基本的に行いません。「5年後や10年後、企業としてどうありたいか」、理念を立てて、ビジョンを設定し、戦略を定めて粘り強く追いかける……そんな中長期的な視点で企業の未来を一緒に考えて、かたちにしていくサポートをしています。そのためには、経営者自身の価値観を明確にしなくてははじまりません。だからこそ、私は対話をもっとも重視しています。
これまで支援してきた企業では、どのような変化がありましたか?
たとえば、とある企業から「ホームページで自社をアピールしたい」という相談を受けたことがありました。実際に経営者とお会いしてみると、ものすごく忙しくしていらっしゃって、現場の最前線でトップ営業を担いつつ、従業員の管理業務も行って、銀行振り込みなどの経理業務も全部一人でやっていたんです。目の前のことで精一杯で、数年先のことは考えられる状況ではない……そういった印象を受けました。いざその経営者に経営理念の話をしてみると、案の定「そんなもので飯が食えますか?」という答えが返ってきたのを覚えています。
そのような状況から、どのように支援を続けたのでしょう?
そこで契約解除のリスクを承知の上で、粘り強く対話を続けました。もちろん今すぐにやらないといけないこともある。でも、同じように10年後を見据えて取り組まないといけないこともある。つまるところ「この会社をどうしていきたいか?組織としてどうあるべきか?」という根本的な議論を重ねていきました。
その結果、当初「そんなもので飯が食えますか?」と言っていたはずの経営理念やビジョンをしっかり言語化し、社会的使命を意識した経営が行われるようになったんです。しかも、従業員に裁量を与えて人材育成に関心を持つようになったり、プライベートも充実させる社風へとじわじわ組織が変わっていいきました。支援してから4年の間で企業体質は一変し、結果的に売上は3倍近くも成長して、数字の面でも目覚ましい成果が生まれましたね。あるべき姿を打ち立て、そこから逆算して行動することで組織はこんなにも変わるんだと目の当たりにしました。
組織風土も変わって売上も3倍……すごい変化ですね。
売上を上げるのは”目標”であって”目的”ではありません。「何のために会社が存在しているのか・何のために事業を行うのか」……あくまで企業経営は目的ありきであり、その順番を間違えてはいけません。まずは、自分たちの存在意義を経営理念として打ち立てて、毎年・毎月の近視眼的な視点ではなく、数年後の中長期的な視点からビジョンを設定するところから私の支援はスタートします。
「ビズクリ」は、経営理念の体現やビジョン達成の重要なピースになる。
今後の展望について教えてください。
「企業の核となる強みを引き出してビジョン達成をサポートする」。これは創業当初からの私のこだわりです。さらに今は「人の可能性を活かす」という領域でもっと求められる存在になりたいと思っています。組織は人で成り立っている。つまり人こそが最大の経営資源なんです。だからこそ、一人ひとりの個性が活かされるような支援をもっと強化していけたらと思いますね。
最後に「ビズクリ」の取り組みを通じて、どのような価値を生み出したいと考えていますか?
経営理念を立てて、ビジョンを設定した後は、実現のための経営戦略を定めて実行するのみです。そのときに経営戦略の策定・実行のプロセスを記録・可視化できる「ビズクリ」は強い味方になります。ありたい姿に向けて、どういう道筋で・どのように実現していくのか。そして今、自分はどんな地点に立っているのか……客観的な視点で点検し、たしかな示唆を得られるはずです。経営理念の体現やビジョン達成の重要なピースとして欠かせないサービスにできればと思いますね。
また、同時に中小企業診断士が活躍するフィールドを広げていきたいという想いもあります。専門的な知見を有する仲間とともに、企業のありたい姿の実現をサポートできたら嬉しいです。