「クライアントとの関係性に上下はない」。支援者に求められるコミュニケーションのスタンス
青木 宏人 あおき ひろと
中小企業診断士として、企業のありたい姿の実現をサポートする。経営者との対話を重視しながら、企業の根本となる経営理念を打ち立て、中長期的なビジョンを策定し、実現のための経営戦略の実行支援を行うというスキームで数々の企業の変革をリードしてきた。丁寧に時間をかけて伴走することで、短期的な売上ではなく持続的な成長を遂げるための企業の”体幹”づくりを可能にする。
「支援者が正解を持っている」という思い込みを捨てて
今回は支援者がクライアントと向き合うときに意識するべきスタンスについて伺えればと思います。
たしかに中小企業診断士の勉強会を開催していると、キャリアがまだ浅い中小企業診断士の方を中心に、クライアントとのコミュニケーションの仕方についての相談をよく受けます。そうした方々の悩みを聞いていると、とある傾向があるように思います。それは「支援者が正解を持っている」という思い込みです。
その思い込みが支援の妨げになっている、と。
「中小企業支援の専門家たるもの、いつも絶対的な正解を持っていなければならない」「何とかクライアントに価値あることを提示しなくてはならない」というプレッシャーがあるのかもしれません。それが焦りに変わり、いつの間にか自分の頭の中にある知識を一方的に伝えることに終始してしまい、空回りしているケースは多いように感じます。
それでは、クライアントと向き合う際にはどのようなスタンスで臨めばよいのでしょうか。
私が意識しているのは、まずクライアントを理解することです。特に私の場合、企業のパーパスやビジョンを策定するところから支援するケースがほとんどです。そのような経営者の思想に関わる部分に関しては、「自分ではなくクライアントが答えを持っている」という意識を持っておく必要があります。
その前提に立つと、こちらの考えを押しつけるよりも、クライアントの価値観を引き出すコミュニケーションが重要になります。逆に相手の思想を踏まえずに「これが御社の理念として相応しいと思います」と“べき論”で一方的に提案を行うとトラブルになりかねません。いかにクライアントの頭の中にあるイメージを引き出し、整理できるか。そうしたスタンスで向き合うとよいでしょう。その際にコーチングの手法は役に立つのでおすすめです。
ビズクリメソッド実践講座でもオンラインコーチングに関するコンテンツがありますよね。
そうですね。ただ、これも数ある支援メソッドの中のひとつ。ケースバイケースで、支援者が答えを提示した方がよい場面もあります。たとえば「工場の稼働率が下がっている原因を知りたい」「歩留まりを改善したい」といった業務レベルの具体的な課題については、明確な答えがどこかにあるわけです。そうした業務改善の相談については、スペシャリストの観点から原因を特定し、打ち手を提案することが求められることもあります。
支援者に求められるのは「聞く」スキル
「答えをクライアントから引き出すケース」で大切なスタンスはありますか?
「価値を出さなければ」という焦りをぐっと堪えて、クライアントの声に耳を傾けることです。まずはクライアントが置かれた状況を解像度高く理解する。その後で自分ができることを考えるという順番が大切です。いいインプットがなければ、いいアウトプットも生まれませんから。
とにかく聞く、と。
はい。支援者にとって「いかに核心的な考えを引き出せるか」は大切なスキルです。もちろん支援の現場に立ったばかりの頃は、何を聞いたらいいか、どうやって聞いたらいいかわからないこともあるかと思います。だから、とにかく学んで、準備して、実践すること。ビズクリメソッド実践講座でも問いかけのポイントを紹介しています。
学び、準備して、実践するサイクルが重要なんですね。
はい。まずは守破離の守を意識して、基本の型を徹底的に身につけることを目指すといいでしょう。もちろんヒアリングをしていると想定していなかった方向に話が逸れることはよくあります。そんなときも自分なりに準備して臨む経験を重ねていれば、次第に対応力がついてきます。
徐々に守から破、離へとレベルアップしていくんですね。
そうですね。むしろ想定していた話題ではないところに、企業の思想を表す重要なエッセンスや課題解決の鍵となる要因が見えてくることがあります。そうした話を聞けるようになると、よい支援者に近づいていると言えるはずです。
同じチームの一員として向き合う
あと、クライアントと向き合う上で意識しておいてもらいたいのが「関係性を上下で捉えない」ということです。
と、いいますと?
つまり「クライアントに上から答えを提示する立場」でもなければ「クライアントの下手に出て何でも言うことを聞く立場」でもないということです。
支援者とクライアントは対等なんですね。
はい。もしかしたら「クライアントは発注者で、自分は仕事を頂いている身」という意識を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、支援者は企業の成長にコミットする役割だと考えると、対等ではない関係性では、その責務を果たすことが難しくなってしまいます。
遠慮してしまうと企業の成長にコミットできなくなるんですね。
取り組もうとしていることが企業の理念やビジョンから逸脱していたり、課題解決の打ち手が明らかに成果を期待できないものであったりしたときに「それは違うのではないか」とストップをかけられることも支援者の役割であり、価値だと思います。
支援者としてクライアントに関わるならば、「共に成長を目指すチームの一員である」という自覚が重要です。
これまでの話をまとめると、上でも下でもなく、同じチームの一員であるというスタンスが大切なんですね。
その通りです。時にはクライアントにとって耳が痛いことを指摘しないといけないこともあるかもしれません。しかし、たとえ面倒な人だと思われても、企業の成長にコミットする役割である限り、経営をよくすることの方が重要です。その熱意はクライアントにもいずれ理解していただけるのではないかと思います。
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