100人以上の声をもとに。現場目線で伴走したIT起点の組織改革
2023.12 28
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    Takumi Kobayashi

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    Thesaurus inc.

100人以上の声をもとに。現場目線で伴走したIT起点の組織改革

「経営者のガイドランナー」としてサービスを展開しているビズクリ。実際にサポートを行うメンバーは、どのようなコンサルティングを実施しているのでしょうか?
そこで、今回はビズクリサポーターのケーススタディをご紹介します。まず登場するのは、IT業界でのバックグラウンドを活かして経営サポートを行っている荒井雄介。ITを起点としつつ、全社を巻き込み、経営にインパクトを与えた支援事例について聞きました。
100人以上の声をもとに。現場目線で伴走したIT起点の組織改革
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荒井 雄介

荒井 雄介 あらい ゆうすけ

シソーラス株式会社 取締役 COO ITコーディネーター、MBA

2003年より大手IT企業にて大規模システム開発プロジェクトマネージャー及びIT戦略策定コンサルタントとして、官公庁、金融機関、製造業等数多くのプロジェクトにおいて中心的役割を担う。顧客の事業戦略策定、ITコンサルティング及びITシステム開発プロジェクトの全体マネジメントに従事している。

急成長の影で。100億円規模のベンチャー企業に生じていた課題

まずは、支援先の企業について教えてください。

地方でIT・通信事業を展開するベンチャー企業です。支援をはじめた当初から売上は100億円規模でした。しかも毎年何十億円レベルで売上を伸ばしている急成長企業でした。

そのような企業がなぜコンサルティングを依頼したのでしょうか?

会社の成長スピードにシステムが追いついていなかったのです。情報システム部が内製したシステムを運用していたのですが、上手く動かないこともよくあると聞きました。そんな背景もあり、情報システム部の部長さんから「情報システム部の開発体制を整えたい」というオーダーを受けたのです。

その後、どのようにコンサルティングを進めようと考えましたか?

「情報システム部の開発体制を整える」といったオーダーでしたが、突き詰めると課題はもっと深いところにあると感じました。一般的にコンサルティング当初に頂くオーダーは、氷山の一角に過ぎないことが多いのです。たとえば「システムが動かない」「このような業務システムがほしい」といった要望がその一例です。しかし、そもそもシステムを変えるならば、業務そのものを整理する必要があります。もし、業務の整理が上手くいかないのならば、組織体制を整備する必要があるかもしれません。それも難しければ、いよいよ経営戦略を考える必要が出てきます。

とすると、まずは経営戦略から着手しようとしたのでしょうか?

いいえ。というのも、目の前の課題を放置するわけにはいきませんので。例えば、目の前にケガして血を流している人がいたら「健康なライフスタイルを実践しましょう」とは言いません。まずは止血する必要があります。健康な身体づくりといった本質的な提案は、血が止まって、ケガが治った後の話なのです。
現にこの企業では、すでにシステムの不具合によって現場が困っていました。その状況を放置して「経営方針を作ったので、社員のみなさんは付いてきてください」と言っても、なかなか協力や賛同は得にくいものです。だから、この企業には、まずは「システムが上手く動かない」といった緊急課題を真っ先に解決しながら、中長期的にITを経営に組み込んでいくという方向性を提案しました。

足を運び、耳を傾ける。100人以上へのヒアリングで信頼関係を築く

ITを経営に組み込む、といった中長期的な目標の達成に向けて、どのようなプロセスを歩んでいったのでしょうか?

まず通常業務に支障を来している原因を取り除かなければ先には進めません。そのため、システムの不具合は早急に解決しました。その後、数ヶ月間をかけて普段社内ではどんな業務が行われていて、どんな不都合があって、どんな状態になったらいいのか、といったことを社員のみなさんにヒアリングする機会をつくりました。

それは、どんな意図があったのでしょうか?

システムはあくまで入り口に過ぎません。業務や組織体制にも影響するため、まずは社内の実情を把握しようと考えました。でも、それ以上に大切なことがあります。

といいますと?

社内から信頼を得ることです。社員にとってみたら、顔も知らない、話したこともない外部の人間の提案で、自分の業務の仕方を勝手に変えられたら嫌だと思うんですよね。だから、とにかく足を運んで、直接会って話すことが大切だと考えました。そして、「この人だったら理解してくれるかも」という信頼関係をつくっていったんです。

実際に何人程度の社員に会ったのでしょうか?

情報システム部門の社員には全員会っています。さらに営業現場の社員から、関西や関東の拠点で働く社員まで、部署や地域を問わず話した社員は100人以上に上ります。それだけでなく、物流を担っている外注先の企業を訪ねて話を聞いたこともありました。

外注先にも行くんですね!

システムの影響範囲って、それほど広範なのです。社員も、外注先も、日常のオペレーションが変わりますから、しっかり話を聞き、理解を深めることが欠かせません。
あちこちに何度も足を運んでいたので、会社を訪問すると、ほとんど全員が「あの人、見たことある」と認識してもらえる状態にまでなりました。

ヒアリングの場では、どんなことを話していたんですか?

もちろんこちらの意図は伝えますが、基本的には「お話を聞かせてください」というスタンスで一貫していました。社員にとっては、システム変更というと「経営陣が決めたこと」「自分たちは現場で忙しいのに、新たな負担を強いないでほしい」といった印象が強いと思うのです。だからこそ「みなさんの課題を解決できる、現場目線のプロジェクトにしたい。現場を深く理解するために話を聞かせてほしい」というメッセージを併せて伝えていました。

「ITを経営に組み込む」。組織のあり方を変革させたコンサルティング

その後、どのようにプロジェクトは進んだのでしょう?

ヒアリングを重ねていくと、会社全体の業務がわかってきます。実は、そのような業務の全体像を把握している人間って、社内にあまりいないのです。例えば、営業や製造、物流、経理など、それぞれの部門では自分たちの業務は把握していますが、他の部門ではどんなことをしているか、自分たちの仕事とどう繋がっているか、知らない人がほとんどです。
そこでヒアリングの内容などを踏まえて、会社全体の業務フローを可視化しました。この全体像があることで、「どこにどんな課題があって、どのように変更していくか」といった議論が可能になります。

なるほど。

ただ、その全体像は、最初から実情を100%反映できているものではありません。あくまでたたき台として、また社員のみなさんからのフィードバックをもらいながら、完璧なものに近づけていく。そうして、やっと社内の合意を得て、正式にプロジェクトのキックオフに辿り着けました。

それほどまでに企業の内部に深く関わっていくのですね。

はい。ときに経営会議に出席して、経営陣に対してプロジェクトの説明をしたり、情報システム部門の組織づくりを行うために採用面談に同席したり。外部の人間ではありますが、当事者意識を持って、社内を巻き込みながら進めていました。

このコンサルティングで、どのような成果が生まれましたか?

システムの不具合といった緊急課題の解決、社員のみなさんへのヒアリング、新規システムの提案など、約1年間の“地ならし”を経て、やっと「ITを経営に組み込む」という目標にアプローチできました。
まずは、情報システム部門内の役割を明らかにして内部組織をつくりましたし、社員の採用やスキルを高める研修も実施しました。また、業務の標準化を進めて、組織全体のレベルアップも実施しています。そのような取り組みを進める中で、もともと「パソコンやネットワークに不具合があったら相談する部署」という社内での情報システム部門の認識を「ITでビジネスそのものの発展に貢献していく部署」という認識へ変えていきました。
最終的には、一緒にプロジェクトに取り組んでいた情報システム部門の部長の評価も高まり、コンサルティング期間の中で、CIO(Chief Information Officer)、つまり執行役員に就任されました。

現在は、どのようなステータスになっていますか?

情報システム部門の立ち位置を明らかにして、組織体制を整える。そこまでしたら、私の支援を必要とせずとも自走できます。だから、今はコンサルティングを行っていませんが、時に部長が私のオフィスに遊びに来てくれるなど、良好な関係は続いています。

ありがとうございました。最後に、荒井さんのコンサルティングのこだわりを教えてください。

上から目線のコンサルティングは、相手に伝わってしまいます。大切なのは、本当にその会社を良くしたい、困りごとを解決したいと思って関わること。そのために、相手のことを深く知り、自分の得意領域の中で、お手伝いできることがあるか、対話を重ねながら支援していくことが重要だと思います。