経営戦略を、もっと手軽に、カジュアルに。中小企業の経営者と支援者をつなぐビズクリクラウドの開発
田中 健太たなか けんた
シソーラス株式会社 テクニカルリードチーム所属 ビズクリ開発におけるプロダクトマネジャーであり、地域とテクノロジーの融合に情熱を燃やすエンジニア。日々、持続可能な地域社会の実現を目指している。
豊富な中小企業支援のノウハウをプロダクトに落とし込む
まずは、ビズクリクラウド開発の経緯から聞かせてください。
もともとビズクリの運営企業であるBCC社が開発していた、経営戦略の策定ができるパッケージソフトをベースにして新規サービスをつくるところから話がスタートしました。
私自身、会社経営には関心があったので、BCC社の代表でビズクリの発起人でもある伊藤さんやビズクリサポーターの青木さん、荒井さんなど経営戦略支援の最前線で活躍している方々と一緒に開発できることに、大きな喜びを感じていました。
どのように開発を進めていったのでしょうか?
主に青木さんと共に、機能の検討を進めていきました。実は中小企業診断士の中でも、コンサルティング専業で独立している人は少数派だと言われています。青木さんは、そんな数少ない1人として非常に多くの支援実績を持っており、実際に組織体質の改善や業績アップを実現するなど、支援先企業からも厚い信頼を得ています。その知見やノウハウを徹底的にキャッチアップし、忠実にプロダクトに落とし込もうと考えました。
青木さんが普段実践されているコンサルティングのプロセスをヒアリングしながら、どんなフレームワークを採用するか、どんな順序で提示するか、など細かい仕様まで一緒に決めていきました。
ビズクリサポーター青木さんと二人三脚で開発していったんですね。
はい。ただ、青木さんの支援ノウハウを反映できても、ユーザーにとって使い勝手のいいものでなければ意味がありません。士業をはじめとした企業支援の専門知識を持つ方々が現場で使いやすいプロダクトを目指し、ユーザーテストを繰り返しながらブラッシュアップを続けています。
中小企業支援の現場で価値を生むために。開発に込めた数々の工夫
他の経営戦略策定ツールと比べ、ビズクリクラウドには、どのような特徴がありますか?
現状、経営戦略策定ツールの多くは、スタートアップ企業向けだったり、新規事業を立ち上げる際のものだったりします。しかし、ビズクリクラウドが想定しているユーザーは既に事業を始めている中小企業です。これは、青木さん自身が中小企業支援の実績が豊富であるからです。
スタートアップ企業の場合は「社会にインパクトを与えるにはどうするか」「どんな社会のニーズに向き合うか」といったように、市場を起点に事業を考えるケースも少なくありません。一方、ビズクリクラウドは、自社を起点に考えます。会社が置かれた状況など現状把握をしっかり行いながら、会社としてどうありたいかを可視化していきます。
具体的に、どのような機能があるのでしょうか?
ビズクリクラウドの機能は、「現状把握」「戦略策定」「計画・実行」という3つのフェーズに分かれています。提示される問いに答えたり、フレームワークの空欄を埋めていくと、経営戦略が完成し、さらに、その実行状況をモニタリングできるようになっていて、目的の実現をサポートできるようになっているんです。フレームワークに関しては、世の中にある膨大な例を洗い出し、それぞれの特徴や関連性を整理しながら、厳選したものを採用しました。
ビズクリクラウドで特徴的なのは、時間軸という概念を取り入れたことです。ひとつの戦略に対して、現状・5年後・10年後というタブを用意しました。たとえば、現状の経営状況を整理・可視化した上で、「10年後どうありたいか」を思い描き、次に「そのために5年後はどんな状態でいなければいけないか」をブレークダウンして考えられるような仕掛けになっています。
現状の把握だけでなく、少し先の未来という視点で考えられるようにしているんですね。
青木さん曰く、中小企業の経営者の方は、採用や売上など目の前にある具体的な課題の解決に視線が向きがちだと言います。もちろん、それらに向き合うことも重要ではあるんですが、その都度目の前の課題を解決するだけでは経営状況がよくなりません。目の前の課題に対して、場当たり的な解決策を繰り返すのではなく、課題の本質を深掘りしながら、中長期的な視点に立って解決策を考えるのが、ビズクリが目指すスタイルです。
また、細かいところですが、中小企業の支援を行う方々が現場で使いやすいようにフレームワークに直接書き込める点もポイントです。ビズクリクラウドが想定しているのは、中小企業支援者の方と経営者の方がコミュニケーションを取りながら使用するシーンです。だからこそ、両者が会話しながらフレームワークを埋め、リアルタイムで確認・調整できる仕様にしました。
もちろんビズクリクラウドを使用する支援者の方は、それぞれのフレームワークを理解しておく必要があります。それらを理解し、使いこなすためのノウハウは、ビズクリ認定制度(仮)でも詳しく解説されています。お客様のお悩みや会話の流れに応じてフレームワークに記入する順番を柔軟に入れ替えたり、戦略の良し悪しを見極めてフィードバックしたり、それぞれの支援者の方なりにアレンジしながら使ってほしいと思います。
経営戦略を立て・実行していくことを、手軽でカジュアルに
今後、ビズクリクラウドをどのように進化させていきたいと考えていますか?
数多くの成果を挙げられてきた青木さんの中小企業の支援メソッドは、これまで暗黙知になっていました。しかも、まだ青木さん自身ブラッシュアップを続けています。そんなメソッドを踏襲し、「ビズクリメソッド」として多くの人に共有可能な形式でプロダクトとして実装できたら、とてもおもしろいことが起こるのではないかと思っています。そんな世界を実現したいです。
たとえば、現状、ビズクリクラウドには、最低限のフレームワークしか搭載していません。青木さん曰く、それぞれのフレームワークを深掘りしたり、アイデアを生み出したりする別のフレームワークも、たくさん存在していると言うんです。最適な状況で、最適なフレームワークをレコメンドする機能を追加することも検討していきたいと考えています。
また、いち開発者として、モバイルアプリの開発と生成AIの導入を進めたいという想いもあります。
それぞれについて詳しく聞かせてください。
経営戦略を立て・実行していくことを、もっと手軽に、カジュアルにしたいんです。だからモバイルアプリを開発して、「パソコンの前に座っていないと経営戦略を立てることができない」という状況をなくしたいと考えています。将来のビジョンやアイデアが思い浮かぶタイミングは、必ずしも仕事中だとは限りません。電車での移動中や食事をしているときということもあるでしょう。そんなときにわざわざパソコンを開くのは現実的ではありませんし、後で記入しようと思っても忘れてしまったり、断片的なメモがあちこちに分散してしまうかもしれません。頭に浮かんだタイミングで、すぐにスマートフォンに書き込み、そのまま整理されるツールがあれば、そんな課題を解決することができます。
また、近年はChatGPTに代表されるような生成AIの技術も発展しています。そのテクノロジーを使うことができたら、さらに経営戦略を立て・実行することのハードルを下げることができると考えています。
ビズクリクラウドで想定している「現状把握」「戦略策定」「計画・実行」というプロセスは、普段の青木さんの支援では数ヶ月から数年かけて行うことも少なくありません。それだけのボリュームや重さのある問いに答えるには、スマートフォンはもちろん、パソコンで打ち込むのも相当な負荷がかかります。しかし、生成AIを使って入力を簡易化することができれば、その負荷を軽減させることができ、結果的に策定スピードを上げることができます。
今は、変化が激しい時代だと言われています。その中で、臨機応変に経営戦略を立てたり、見直せるようになることは、価値があると考えています。
たしかに、モバイルアプリと生成AIによって、経営戦略を立て・実行していくことが、手軽でカジュアルなものになりそうです。
もしこれらの構想が実現されたら、中小企業の支援者の方と経営者の方のコミュニケーションも取りやすくなるのではないかと思います。中長期的な視点で考える経営戦略は、重要なことですが、ついつい後回しになりがちです。日々忙しく、まとまった時間が取れない経営者の方も多いと思います。そんな中でも、スキマ時間にスマートフォンからビズクリクラウドに記入しておき、「これをレビューしてください」と支援者の方に連絡できるような世界観が実現できたら、スムーズに経営戦略の策定や実行も進むのではないかと思います。
もっと共同編集しやすいような設計にしたり、チャット機能を追加したりして、支援者・経営者、両者のコミュニケーションが円滑になるような仕組みを導入できたらいいなと思います。
最後に、読者にメッセージをお願いします。
まだまだビズクリクラウドは、リリースしたばかりです。もっと使いやすさを向上させ、中小企業の経営改善に貢献できるツールに育てていきたいと考えています。2024年4月(予定)からは、ビズクリ認定制度(仮)もスタートします。カリキュラム内では、戦略の策定や計画・実行方法と、それに連動したビズクリクラウドの活用方法を学ぶことができます。その受講者の方々のフィードバックを得ながら、アップデートしていきたいです。その際はぜひお声を聞かせていただければ幸いです。