「まだ使える」で止まるIT投資。経営に伝わる整理の5論点

「まだ使える」で止まるIT投資。経営に伝わる整理の5論点

「まだ使える」で止まるIT投資。経営に伝わる整理の5論点
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基幹システムの保守期限が近づいている。サーバーのOSがまもなくサポート終了を迎える。特定の担当者しか触れない業務アプリケーションがある——。情報システムを担当していれば、どれも早めに手を打ちたいテーマです。ところが経営会議に上げると、「今のところ動いているので、もう少し様子を見よう」という結論に落ち着く。そして翌期も同じ議題を出し、同じ結論に戻る。この記事では、その状況を動かすための整理の順番をまとめました。

この記事でわかること

  • 「まだ使える」で判断が止まるのは、説明の巧拙ではなく判断軸のズレが原因であること
  • 経営層が投資の可否を判断するために必要な、5つの論点
  • 現状を維持した場合に発生している費用を、見える形にする方法

こうした場面は、めずらしくありません

保守が切れる。サポートが終了する。障害が起きたときに対応できるのが一人しかいない。情報システム部門から見れば、いずれも先送りするほど条件が悪くなるテーマです。

それでも稟議が通らないとき、多くの場合、反対されているわけではありません。「反対ではないが、いま決める理由が分からない」という状態で止まっています。経営会議の議題は他にもあり、判断材料が揃っているものから順に決まっていく。IT投資は、その順番待ちの列で後ろに回されやすいテーマです。

情報システムを一人で担っている場合や、総務・経理と兼ねている場合には、説明資料をつくる時間そのものが確保しにくくなります。日々の問い合わせ対応や障害対応が優先され、整理は後回しになる。結果として、来期も同じ議題を出すことになります。

伝わらないのは、説明の巧拙ではありません

同じシステムを見ていても、情報システム部門と経営層では、判断に使っている物差しが違います。情報システム部門は「リスク」で見ます。保守期限、脆弱性、障害の可能性、対応できる人数。一方で経営層は「投資対効果」で見ます。いくら払い、何が得られ、いま決める必要があるのか。

情報システム部門はリスクで見て、経営層は投資対効果で見る。判断の物差しのズレを示した図
情報システム部門と経営層では、判断に使う物差しが異なります

物差しが違うため、「このままでは危険です」という説明は、「それで、いくらのリターンがあるのか」という質問で返ってきます。ここでリスクの説明を重ねても、話は前に進みません。必要なのは説明の熱量ではなく、経営が使っている物差しに載せ替えることです。

もうひとつ、見落とされやすい点があります。議論の対象が「投資する/投資しない」の二択になっていることです。実際には「いま投資する/後で投資する/投資せずに運用で補い続ける」の三択で、どれを選んでも費用は発生します。現状維持は、無償の選択肢ではありません。この前提が共有されていないと、投資する案だけにコストがあるように見えてしまいます。

経営が判断できる、5つの論点

稟議や経営会議に上げる前に、次の5つが埋まっているかを確認します。すべてを詳細に書き込む必要はありません。空欄がどこかを把握しておくことが目的です。

IT投資を経営が判断するための5つの論点。現行システムの状態、業務への影響範囲、現状維持のコスト、投資後に得られる状態、実施時期の選択肢
経営が判断できる、IT投資の5つの論点

1. 現行システムの状態。保守期限、サポート終了日、直近1年の障害件数、単独で対応できる担当者の人数。ここは評価や所感ではなく、日付と数値だけを並べます。「古い」「不安がある」といった表現は、受け取り手によって解釈が変わってしまいます。

2. 業務への影響範囲。止まったときに、どの業務が、何人に、どのくらいの期間影響するのか。ここではシステム名ではなく業務名で語ります。「基幹システムが停止する」ではなく「受注登録と出荷指示が止まる」と書くだけで、経営層が状況を具体的に想像できるようになります。

3. 現状を維持した場合のコスト。投資しないという選択にも、費用は発生しています。この論点が最も抜けやすく、そして最も効きます。次の項で詳しく扱います。

4. 投資後に得られる状態。削減できる作業時間、対応できる担当者の人数、下がるリスク。「システムを最新化する」ではなく、到達する状態で書きます。手段ではなく結果を示すことで、投資対効果の物差しに載ります。

5. 実施時期の選択肢。今期に着手した場合、来期に回した場合、再来期に回した場合で、費用とリスクがどう変わるか。時期の比較は、経営層にとって最も判断しやすい形式です。「やるか、やらないか」ではなく「いつ、どの範囲でやるか」に議題が変われば、その時点で前進しています。

現状を維持した場合のコストを、どう出すか

経営層から見えている費用は、保守契約費、ライセンス費、既存の運用委託費といった、請求書になっているものです。一方で、実際にはそれ以外にも費用が発生しています。ただし、それらは数字になっていないため、比較の対象になりません。

現状維持にかかる費用の内訳。経営から見えている費用と、数字になっていない見えていない費用の対比
「投資しない」という選択にも、費用は発生しています

ここで求められているのは、精密な積算ではありません。障害対応に月あたり何時間かかっているか、手作業の補完に何時間使っているか。それを人件費の単価で概算するだけで十分です。桁が合っていれば、比較の土俵をつくるという目的は果たせます。

先送りによる移行費の上昇も、あわせて触れておきたい項目です。稼働期間が長くなるほど、データ量は増え、周辺の連携は複雑になり、当時の経緯を知る人は減っていきます。同じ移行でも、後になるほど工数は増える。この点は、時期の選択肢(論点5)と直接つながります。

経営に伝えるときの、言い換えの例

論点が揃ったら、最後に表現を整えます。原則はひとつだけで、主語をシステムから業務に置き換えることです。

  • 「サーバーのOSがサポート終了します」→「サポート終了後は脆弱性が修正されなくなり、受注処理を担う業務が影響を受けます」
  • 「システムが古くなっています」→「同じ処理に月◯時間かかっており、人件費に換算すると年間◯万円にあたります」
  • 「属人化しています」→「この業務を単独で対応できるのは1名で、不在時は◯日間、処理が滞ります」
  • 「刷新が必要です」→「今期に着手すれば◯◯の範囲で収まり、来期に回すと移行費が◯%増える見込みです」

言い換えたからといって、内容が変わるわけではありません。伝えている事実は同じです。ただ、経営会議で扱える形になっているかどうかで、その先の進み方が変わります。

それでも、社内だけでは決めにくいとき

ここまでの整理を進めていくと、判断がつきにくい部分が出てきます。放置コストをどこまで概算に含めるか。5つの論点のうち、どれを先に出すか。自社の状況では、どの時期を推すのが妥当か。社内だけで考えていると、前提が固定されて見直しにくくなる部分でもあります。

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