持続可能性と収益性の両立を。中小企業診断士の新たな価値提供

難題だからこそ、中小企業診断士が活躍できる
気候変動の加速、資源の枯渇、生物多様性の喪失など、地球規模の環境問題が深刻化する中、ビジネスの在り方そのものが問われるようになりました。
2015年に国連で「SDGs」という枠組みが提唱されて以降、環境・社会・経済の調和が国際的な共通言語となり、大企業だけでなく中小企業にも持続可能性への配慮が求められています。
一方で、中小企業にとって「環境対応」は負担増やコスト高につながるという認識も根強くあります。再生可能エネルギーの活用、資源循環の促進、環境負荷の少ない製品・サービスの開発など、これまでの事業活動の見直しが迫られているためです。
「持続可能性への取り組み」と「事業の収益性確保」を両立させることは容易ではありません。経営資源の限られた中小企業が、どのようにこの難題に取り組めばよいのか。ここに中小企業診断士が価値を発揮するべき可能性が広がっています。
中小企業診断士は、経営戦略、マーケティング、財務、生産管理など経営全般に関する知識を持ち、企業の現状を俯瞰的に捉える能力を備えています。この強みを活かすことができれば、持続可能性と収益性を両立させる事業モデルの構築を支援する役割を担うことができるはずです。
たとえば、環境負荷を低減しつつコスト削減も図る省エネ・省資源化の提案、環境配慮を差別化要因とした新たな顧客層の開拓、サプライチェーン全体での環境負荷低減を通じた取引先との関係強化など、多角的なアプローチがあります。また、従来の補助金申請のノウハウをもとに、公的支援制度の活用によって初期投資の負担を軽減させる提案も可能でしょう。
大切なのは、経営者の価値観や企業理念に根ざした「自社らしい」持続可能性への取り組みを引き出し、かたちにする伴走型の支援です。中小企業診断士は「脱炭素が進む経営環境の変化」を単なるリスクとして捉えるのではなく、新たな事業機会として捉え、よりよい状況へと導く役割を果たすべきなのです。

地中熱利用住宅で差別化と持続可能性を実現!とある工務店の支援事例
ここで実際に中小企業診断士がサスティナビリティと利益追求の両立に際して価値を発揮した事例を紹介します。
取り上げるのは、愛媛県松山市の株式会社徳田工務店です。同社は中小企業診断士のサポートを受け、「地中熱利用住宅」という新たな価値提供で事業を発展させました。
もともと同社を取り巻く経営環境は厳しいものでした。愛媛県の建設業界は2001年から2009年の間に事業者数が約17%減少し、新設住宅着工戸数も1990年の15,745戸から2010年には6,554戸と約半分に落ち込んでいました。加えて、住宅市場は「低価格住宅」と「高付加価値住宅」の二極化が進み、特徴のない木造住宅を提供する建築業者は生き残りが難しい状況だったのです。
こうした課題に直面した徳田工務店に対し、支援に入った中小診断士はまず組織体制の改善からサポートを始めました。ISO9001の仕組みを取り入れたり、個人のノウハウを「形式知化」する取り組みを進めたりといった支援を行い、業務効率を改善させました。
さらに依然として残っていた売上向上という課題に対して、同社の強みを活かせる新たな価値提供として「地中熱利用住宅」に着目しました。地中熱とは年間を通じて温度変化の少ない地下の熱エネルギーであり、これを活用することで室内の温度変化を緩やかにし、特に高齢者に多いヒートショックを防止できます。

この事業をかたちにするにあたって、自らのネットワークを活かし、技術専門家を紹介しました。さらにモデル住宅建設のための資金調達として愛媛県の建設産業に関わる補助金の申請支援を行い、学術研究者とのネットワーク構築もサポートしながら北海道のアイヌ民族住宅の知恵を取り入れた住宅構造の研究開発を支援したのです。
こうした取り組みの結果、徳田工務店は「地中熱利用の空調システムによる建物通気構造」で特許を取得。新築工事における地中熱利用住宅の割合は約半数に達し、さらに一般住宅より高い工事単価を実現しています。高齢の親との同居を考えた二世帯住宅の依頼も増加するなど、高齢化社会の課題解決にも貢献しています。
徳田社長は「地中熱の住宅がなければ、徳田工務店が存続できたかどうかわからない」と述べており、環境負荷低減と事業継続の両立において中小企業診断士が果たした役割の大きさを物語っています。単なる経営支援にとどまらず、技術的専門家や行政機関とのネットワーク構築、補助金活用、特許取得支援など、多角的なサポートが徳田工務店の成功の鍵となったのです。
※参考:一般社団法人中小企業診断協会「平成 27 年度『中小企業診断士の活用成功事例』」

これからの中小企業診断士に求められること
「持続可能性と収益性の両立」と聞くと、一見ハードルが高いように感じるかもしれません。しかし、事例で取り上げた中小企業診断士が行ったのは、ネットワークを活かして専門家を繋ぐ、広い視野で市場環境やトレンドを見極めた提案を行う、補助金などの施策を活用して資金調達と実行を支援するといった中小企業診断士の基本的な価値提供だったのです。
単なる理論や知識の提供ではなく、徳田工務店の事例のように「実行」に落とし込むところまで伴走する姿勢こそが、ビズクリが目指す中小企業診断士の価値提供のあり方です。これからの中小企業診断士には、従来の経営知識に加え、持続可能性や最新技術動向への理解、そして何より「クライアントと二人三脚で歩む」という姿勢が求められています。そうした総合的な支援ができる診断士こそが、これからの時代に真に必要とされる存在になるのです。
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