「経営戦略を立て、実行する」。そのシンプルなルールが私を上場まで導いた。
2023.09 25
  • Writing

    Takumi Kobayashi

  • Photograph

    Ayako Shohata

  • Edit

    Thesaurus inc.

「経営戦略を立て、実行する」。そのシンプルなルールが私を上場まで導いた。

“経営者のガイドランナー”というコンセプトを掲げる「ビズクリ」。その核となるサービス「ビズクリサポート」のビズクリサポーターは、どんなキャリアを重ねてきたのでしょうか。今回は、「ビズクリ」を立ち上げた中小企業診断士・伊藤一彦にインタビュー。27歳という若さで起業し、幾多もの苦難を乗り越え2021年に上場も果たした伊藤に、これまでのキャリアと経営戦略の価値を聞きました。
「経営戦略を立て、実行する」。そのシンプルなルールが私を上場まで導いた。
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伊藤 一彦

伊藤 一彦 いとうかずひこ

BCC株式会社 代表取締役社長 中小企業診断士

IT営業の人材を育成し、大手企業に派遣するIT営業アウトソーシング事業と、介護レクリエーションというユニークなアプローチのヘルスケア事業を展開するBCC株式会社を経営する。2021年に東証マザーズに上場。「経営戦略を立て、実行する」。そんなシンプルなルールを忠実に実践することで、着実な事業成長を実現してきた。地域のビジネスコンテストの審査員やアクセラレーションプログラムのアドバイザーとしても活躍し、経営の鉄則を伝えている。

教員志望から起業の道へ。
IT営業に見出したビジネスの芽。

まずは経歴から教えてください。

もともと学生時代は理学部に在籍し、学校の先生を目指して教員免許も取っていました。でも、塾講師のアルバイトを経験する中で、いまいち教師をリスペクトしていない子どもたちが多い現実にも直面したんです。
そんなときに、たまたま家庭教師派遣の事業を展開するベンチャー企業のアルバイト募集のチラシを手に取りました。そこに「時給8,000円も可」という文字が書かれていたんです。よく見ると、子どもがいる家庭を訪問して、家庭教師の契約を取ってくる営業のアルバイトで、1件受注したら8,000円という完全歩合制の仕事でした。

それがベンチャー企業との出会いだったと。

はい。いざはじめてみると、もともと塾講師で子どもやその親御さんとのコミュニケーションに慣れていたこともあり、バンバン契約を取れて「これはおもしろいな」と思ったんです。
しかも、その会社の社長はまだ20代で、自分とそれほど年齢が変わらないのにベンツに乗っていて、ロレックスの時計を身につけている。そして「いつか上場を目指すんだ」と語っていて、「これがベンチャー企業の世界か」と当時の自分には衝撃的でした。「いつか自分もこんなキラキラした世界に行ってみたい」と思い、半分よこしまな気持ちで(笑)、学校の先生からベンチャー企業の経営者に進路変更しましたね。

その後、どのような進路を選ばれたのでしょうか?

もちろんそのままベンチャー企業に入社する選択肢もありました。でも、将来せっかく起業するなら会社を大きくしたい。それならば、大きな会社のつくり方を学ぶために、一度大企業に入社しようと思いました。
特に私が目を付けたのは、IT業界です。就職活動をしていた当時はインターネット黎明期で、これから発展する領域で力を身につけたいと考えました。そして、いくつかの大企業から内定を頂いた中で選んだのがNECです。理学部ではありましたが、研究職や技術職ではなく将来的な起業を見越して営業職として文系就職しました。
当時、面接の中で「僕は将来独立します」と伝えていたのに採用してくれたNECにはとても感謝しています。その証に、今でもNECの売店でしか買えない「NEC手帳」を愛用しているんです。

実際に入社してみて、いかがでしたか?

実際に働く中で、IT業界の課題は「営業」なのではないかと思うようになりました。というのも、IT企業で優先度が高くなりがちなのは、やはり技術領域で、エンジニアなどの技術職は研修も充実しています。一方で営業職は「先輩の後に付いていって学ぶ」といった属人的な要素が大きく、営業人材を育てるためにパワーを割く余裕がなかったんですよね。
でも、お客様のニーズを聞き取り、最適な提案を行うIT営業を育成しなければ、いつかクレームにつながったり、そもそも受注できなかったりします。業界全体でも「IT営業が足りない」という声が聞こえていました。

NECでも、起業するためのビジネスプランを探していたんですね。

はい。ただ、当時はまだはっきりとイメージを描けていませんでした。その後、「体力と気力のある20代で起業する」という目標を叶えるため、知人のベンチャー企業に転職し、マーケティングとマネジメントを経験。起業の準備を進めていきました。

幾度となく直面した倒産の危機。”痛み”を伴いながらも、仲間と共に乗り越える。

その後、どのように起業に至ったのでしょうか?

当時、ソニーが法人向けのインターネットサービスの代理店を関西で探しているという情報を得て「これだ!」と直感しました。というのも、私が感じていた「IT営業の育成」という課題に挑戦できますし、あの有名企業のソニーが手掛ける法人向けサービスであれば営業もしやすいと思ったんです。
私自身、「天の時、地の利、人の和」という言葉を大切にしています。タイミングよく願ってもないビジネスの種が降ってきて、IT業界でキャリアを積み、関西で生まれ育った地の利があり、さらに、「起業するのであれば自分も一緒にやらせてください」という後輩もいました。まさに「天の時、地の利、人の和」が揃って「やるなら今しかない」と思い、27歳のときBCC株式会社の前身となる「営業創造株式会社」という会社を起業したんです。

満を持しての起業だったんですね。

ただ、意気揚々と起業したものの、どんどんキャッシュが減っていく日々。借りても借りてもお金が出ていく中で、創業当時は精神的にとても苦しい期間を過ごしました。毎晩借金取りに追われる夢を見て飛び起きたり、駅のホームで線路をぼーっと眺めているときもありましたね。

そんなに追い詰められていたんですね……。

従業員が頑張ってくれたおかげでなんとか事業を軌道に乗せることができたんですが、次にやってきたのがリーマンショックでした。当時はベンチャーキャピタル5社から合計1億千万円もの出資を受けたタイミングだったんです。せっかく事業が回り始め、資金も調達して「これで上場を目指すんだ!」と意気込んでたのに、あっという間に債務超過になってしまいました。50人以上もの従業員を抱えているのに、今にも会社が潰れそうな状況でしたので、やむを得ず経営陣の役員報酬をなくし、従業員の給料を10%下げる決断をくだしたんです。

せっかくひとつの壁を乗り越えたところで、新たな壁が……。

創業から今までを思い返してもこの時期がいちばん辛かったですね。もともと従業員には「うちの会社は給料を下げることはない」と約束していましたから。でも、経営状態が悪化する中で、従業員に辞めてもらうか、給料を下げるかしか選択肢がないところまで追い込まれていたんです。創業当初の苦しい時期を本当に頑張って乗り越えてくれた大切な仲間の首を切ることはどうしてもできず、苦渋の選択として給料を下げることになり、従業員との約束を破ってしまいました。このときの胸を引き裂かれるような想いは、ずっと忘れません。

そんな”痛み”を伴いながらも、リーマンショックに対応していった。

はい。銀行からお金を融資してもらいながら、なんとかその危機を乗り越えました。振り返ると、会社が潰れてもおかしくない危機を幾度となく経験してきましたが、私には運がありました。一生に10回しかないラッキーを最初の10回に使うことができたんじゃないかと思っています。おかげで2021年に東証マザーズに上場することができました。

経営戦略を立てて実行していれば、いつか必ず成功する。

「ビズクリ」では、経営戦略の策定・管理の支援を行っています。伊藤さんが経営戦略の重要性を感じた背景を教えてください。

起業当初、どのように企業経営に取り組めばいいのかわからず、「まずは経営者としての基礎知識を身につけよう」と思い、中小企業診断士の資格を取りました。もちろん起業したばかりで会社にも個人にも信用がなかったため、この経営コンサルタントの国家資格を取ることで少しでも信用してもらいたかったという理由もあります。
いずれにせよ、ここで身につけた経営理論は、実際の企業経営に大いに役に立ちました。

その内容を具体的に教えてください。

私の会社は決して特別なアイデアがあるわけではありません。ただ、バランススコアカードという経営戦略の策定手法にもとづいて、ビジョンをつくり、現状分析をして、戦略を立て、実行するという経営の基本にもとづいて実践してきただけです。その結果が上場という結果に結びつきました。
また、そのスタンスはM&Aで進出したヘルスケア事業でも同じです。理論に従って忠実に行動しているからこそ、未知の領域でも着実に成果をあげることができているんだと思います。

事業が成功した背景には、経営戦略があったんですね。

はい。私自身、大阪市をはじめ、さまざまなビジネスプランコンテストの審査員を依頼されたり、アクセラレーションプログラムでアドバイザーを務めたりすることもあるんですが、決定的に「経営戦略」の視点が足りないのが課題だと感じているんです。
ビジネスモデルを描いたり、心に響くプレゼンテーションを見せたりするのは、みなさん素晴らしいものがあります。でも、いかにそのビジネスを実行に移すのかが弱く、描いた絵を現実に落とし込むための”補助線”が経営戦略なんです。

ビジョンを描くだけでは成功できないと。

もちろん、そもそも机上で勝てないビジネスモデルでは、現実でも成功するのは難しいかもしれません。でも、せっかくいいビジネスモデルを持っているのなら、あとは経営戦略をつくって、実行するだけです。
経営戦略をつくって実行しないということは、人とものとお金のバランスが崩れていくということ。バランスが崩れ続けると、残念ながら潰れてしまう会社も出てくるでしょう。そうした状況を避けて、それぞれの企業が社会に価値を提供し、継続的に事業運営ができるようになれば、日本の国力や地域の経済力を高めていくことにもつながると思うんですよね。その鍵が経営戦略だと考えています。

地域や企業規模に関わらず、成功する経営戦略を立て、実行できる社会へ。

さまざまな経験を重ねてきた伊藤さんが、経営者に伝えたいことはありますか?

たとえ失敗することがあったとしても、賢くチャレンジし続けることですかね。社会や時代は移り変わっていくから、自らも変化していかないと企業が生き残るのは難しいんですよ。経営者自身、常に時代状況を読みながら新しいチャレンジを続けていくこと、しかもむやみやたらに挑戦するのではなく、戦略的にチャレンジすることが大切ではないでしょうか。

といいますと?

私自身、たくさんの失敗を経験しながらチャレンジしてきました。祖業であるIT営業アウトソーシング事業ではいくつもの挫折がありましたし、M&Aしたヘルスケア事業も成功した「介護レクリエーション」というビジネスに辿り着くまでにたくさんの失敗がありました。10回チャレンジしたうち9回は上手くいっていません。でも、そんな中でも1つの成功を掴むことができたのは、ちゃんと経営戦略をつくって実行していたからです。失敗のたびに計画との乖離を見つけ、改善を繰り返すことで成功確率は徐々に上がっていきます。「事業を立ち上げてやりっぱなし。失敗しても振り返らずに次に行く」というスタンスでは、一体何が要因で失敗したのか、どこを改善すれば上手くいくのかがわかりません。経営戦略を立てて実行するからこそ、失敗も価値に変わっていくんです。

最後に、「ビズクリ」で、どのような価値を社会に提供していきたいと思いますか?

ビジョンと事業成功の間を埋める経営戦略は、ものすごく重要なことであり、この価値をもっと広めていきたいと思っています。でも、実際には「経営戦略を策定したい」と思っても、経営コンサルタントに高額の報酬を支払うのが難しい中小企業もあるかもしれません。また、地方の場合、経営戦略に長けたコンサルタントが周囲にいない場合もあるでしょう。一方で、中小企業診断士やMBA、ITコーディネーター、税理士、社労士など企業経営に関わる専門家も、せっかく経営戦略を学んでいるのに、その知識やスキルを十分に生かし切れていない方もいます。「ビズクリ」では、そういった2者の間をつなぐことができればと思っているんですよね。「ビズクリ」だったらオンラインで完結できるから、企業にとっては導入コストが抑えられますし、専門家の方にとっても仮に企業に勤めていたとしても副業としてその知見を活かす場が生まれます。
そうして、企業規模や地域に関係なく、経営戦略を立て、実行できる仕組みをつくって、全国のビジネスを応援していきたいです。

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